
▸人的資本とトークン資本
従業員の知識・判断力・人間関係・創意工夫・パターン認識である人的資本と、企業が自ら構築し、所有するAIの能力であるトークン資本という二つの資本を育てる必要がある。
▸AI brain fry(AIによる脳の焼き切れ)
AIツールの過度な利用や監督によって認知能力の限界を超えて生じる精神的疲労。
▸AI活用は人事案件
AI活用は単なるシステム導入や業務効率化にとどまらず、「人とAIをどう育て、どう活かし、どう評価するか」という経営と人事の本質に関わるテーマである。
こんにちは、ワークスアイディの奥西です。
人材か、テクノロジーか…。
私は、その両方をいかに育て、掛け合わせるかが重要だと考えています。
これまで企業は、人材を『人的資本』と捉え、採用や育成、評価、配置に投資してきました。
そして今、生成AIの進化によって、もう一つの経営資源が生まれています。それが、
AIが実務の一部を担う時代、私たちは
人に何を任せ、AIに何を任せるのか。人の能力をどう伸ばし、AIの力をどう引き出すのか。
こう考えると、AI活用は単なるシステム導入や業務効率化にとどまる話ではありません。
「人とAIをどう育て、どう活かし、どう評価するか」という、経営と人事の本質に関わるテーマなのです。
つまり、AI活用は『人事案件』でもあるのではないでしょうか。
今回は、
人的資本とトークン資本を同時に考える時代
2026年6月14日、MicrosoftのCEOサティア・ナデラ氏がXに投稿した長文の論考が、大きな話題を呼びました。示されたのは、これからの企業は『人的資本』と『トークン資本』という二つの資本を育てる必要があるという考え方です。
- 人的資本:従業員の知識・判断力・人間関係・創意工夫・パターン認識
- トークン資本:企業が自ら構築し、所有するAIの能力
ナデラ氏が強調したのは、
人がAIに教え、任せることでトークン資本が育ち、AIとの協働から人が学ぶことで判断が磨かれ、人的資本も育つ。
そんな循環のイメージです。
自社の知が入って初めてトークン資本になる
注目したいのは、ここで言う“AIの能力”が、汎用モデルの賢さだけを指していない点です。
自社の製品知識、過去のトラブル対応ログ、ベテランが「なぜそう判断したのか」という暗黙知や思考プロセス。こうした
ナデラ氏も、「AIモデルを乗り換えた途端に蓄積が消えるなら、それは自社のトークン資本とは言えない」という趣旨を述べています。
だからこそ、AI投資を「人件費がいくら減ったか」「ツールにいくら払ったか」だけで評価すると、大事なものを見落とします。
人の知見がAIを育て、AIとの協働が人を育てる。
この循環を回せているかこそ、私たちが今、問うべき指標なのかもしれません。
AI導入は“配置と役割”を決める人事案件
ある製造業のお客様で、象徴的な出来事がありました。
品質保証部門で、不具合報告書の一次分析にAIを使い始めた時のことです。
精度は申し分ありません。ところが、3カ月経っても現場ではほとんど使われていませんでした。
現場の課長に率直な理由を尋ねると、このような答えが返ってきました。
だからリスクを恐れて、結局全部自分たちの手でやり直しています。
これは技術の問題ではありません。
新しいメンバーをチームに迎える場面を思い浮かべてください。担当業務、決裁権限、報告先、育成担当を決めますよね。AIも同じです。
- AIにどの業務を任せるのか
- どこまでの判断をAIに委ね、どこから人が確認するのか
- 誰がAIの「上司」として、成果物の品質に責任を持つのか
- 人とAIをどう組み合わせれば、チームとして最もパフォーマンスを発揮できるのか
これらはまさに、職務設計・配置・育成という、人事やマネジメントの領域そのものです。
ワークスアイディの伴走支援では、『AI管理台帳』の作成をご提案することがあります。いわばAIの職務記述書です。
経営が方針を示し、人事が役割と育成を設計し、ITが安全な基盤を整え、現場が知見を流し込む。AI活用をIT部門だけの案件にせず、人事の発想で組織設計に落とし込むこと。
これが、定着するかどうかの大きな分かれ道になります。
効率化の先にある“判断の集中”と人の疲弊
ここで、あまり語られない落とし穴にも触れておきます。
作業が減れば、人に余裕が生まれる。そう考えがちですが、現場では逆のことが起きる場面を何度も見てきました。
AIエージェントによる文書チェックを導入されたお客様先でのことです。
担当者の作業時間は確かに減りました。ところが3カ月後、その方は疲れた表情で笑いながらこう話してくれたのです。
一日中、判断ばかりしている感覚で、さすがに夕方には頭が回らなくなります。
以前のコラム、『AI活用しても消えていく生産性』で書いた話に近いものがあるかもしれません。
AI brain fry ― 監督する人ほど疲れる
今年3月、BCG(ボストン コンサルティング グループ)とカリフォルニア大学リバーサイド校の研究者たちが『Harvard Business Review』で発表した調査が、この現象に名前を付けました。
米国のフルタイム労働者1,488人を対象にした調査で、AIツールの過度な利用や監督によって認知能力の限界を超えて生じる精神的疲労を
AIの出力を監督する負荷が高い人は、低い人に比べて以下のような負荷を抱えていることが明らかになりました
- 精神的な労力:14%多い
- 精神的疲労:12%高い
- 情報過多:19%高い
- 離職の意思を示した割合:34%(そうでない人は25%)
一方で、明るい材料もあります。
繰り返しの定型作業をAIに任せた人は、バーンアウト(燃え尽き)のスコアが15%低かったのです。ただし、精神的疲労そのものが減るわけではない点には注意が必要です。
研究者たちは、マネジャーが適切にマネジメントできる部下の人数に目安があるように、
つまり問題は、AIの使い方ではなく、仕事の設計にあるのです。
もう一つの落とし穴は、AIで生まれた時間をそのまま追加業務で埋めてしまうこと。
「AIで作業が早くなったなら、もう一件お願い!」この繰り返しが、学習や創造のための余白を奪っていきます。
私がお客様にお伝えしているのは、次の3つです。
- AIに任せる範囲を広げるだけでなく、“人が見なくてよい範囲”も決める
- 確認や承認は、リスクの大きさに応じて段階を分ける
- 生まれた時間の使い道を、あらかじめ決めておく
二つの資本を育てる3つの人材マネジメント
人的資本とトークン資本。2つをともに育てるには、企業は何を変えればよいのでしょうか。現場から取り組める3つのアプローチをご紹介します。
①現場の「修正」を組織の資産にする
AIの出力を人が直す。その修正の中にこそ、企業固有のノウハウが詰まっています。
通信業のお客様では、コールセンターのベテランがAIの回答案を修正した記録を、
現場の知見がトークン資本に昇華された分かりやすい例です。
②生まれた時間を「再投資」する
リスキリングや学習、顧客の生の声を聞きに行く時間、新しい企画への挑戦。
③評価のものさしを変える
海外では、AIのトークン使用量を社員の評価に結びつける動きが広がり、『tokenmaxxing(トークンマクシング)』という言葉まで生まれました。
ところが、利用量を稼ぐために不要な作業までAIに回す社員が現れ、ランキング評価を取りやめる企業も出ています。米Meta社も今年9月、トークン数で社員の成果を評価しない方針を社内に示したと報じられました。
トークンの消費量だけでは、AIを効果的に使えたかも、アウトプットの質も分かりません。利用回数や削減時間に加えて、次の
- 成果物の質は上がったか
- 人は成長したか
- 組織の知見はAIに蓄積されたか
そして、AIが作業を肩代わりすればするほど、人に残るのは
ワークスアイディが大切にしている“新たな問いへの挑戦”こそ、これからの人的資本の中核を担うと思っています。
まとめ
AIという新しい仲間に何を任せ、人は何に集中し、チームとしてどう育っていくのか。
経営であり、人事であり、現場を支えるリーダーの皆さんです。
人が育てばAIが育ち、AIが育てば人がさらに育つ。
この好循環を経営の仕組みに組み込めた企業こそが、これからの時代に選ばれていくはずです。
ぜひ皆さまの会社でも、「AI活用は人事案件」という視点で議論してみてください。
それでは、本日もGOOD JOB!!
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