
▸ナレッジデータ層
社内に散在する文書・ルール・過去事例・業務知識を、AIが業務の文脈に沿って使える形で整えた情報基盤。
▸7つの実践ステップ
アウトカムを明確にする、必要な情報をリストアップする、情報の探し方を分析する、情報の使われ方を分析する、プロンプトで手動検証する、システムとして構築する、継続的に運用・更新する。
▸AI活用の本質
企業内に眠る知識を掘り起こし、再利用可能な資産に変えること。
こんにちは、ワークスアイディの奥西です。
「生成AIを全社に展開したものの、個々人の手元作業の効率化に留まっている。」
「AIを使いこなしている人と、使い切れていない人の差がはっきりしている。」
多くの経営者や管理職の方は、この原因を“モデルの性能”や“社員のリテラシー”に求めてしまいがちです。私も最初はリテラシーが原因と考え、研修支援を行ってきました。確かに、使い方という観点でリテラシーは重要かつ最低限必要な要素です。
しかし、現場に入ってじっくり観察すると、リテラシーの裏に『真犯人』が見えてきます。
それが、AIに読み込ませる企業固有のナレッジや業務データが整理されていない、という問題です。
汎用的な知識だけでも、AIはそれらしい回答を返します。ですが、実務で本当に価値を出すには、以下のような
- 社内規程 / 業務マニュアル
- 提案資料 / 営業資料・パンフレット
- 技術要件 / 契約書
- FAQ / 過去の問い合わせ
これらがないと、AIは「よく喋るが、うちの仕事は何も知らない新人」のままです。
企業固有のナレッジや業務フローといった
ワークスアイディでも『Microsoft 365 Copilot』や『Copilot Studio』を活用した伴走支援の中で、このテーマをご相談いただく機会が増えています。
本日はこの、
AI活用の土台となる『ナレッジデータ層』とは?
私は、社内に散在する文書・ルール・過去事例・業務知識を、AIが業務の文脈に沿って使える形で整えた情報基盤を『ナレッジデータ層』 と呼んでいます。
例えば、社内規程は[経費精算や勤怠、稟議の問い合わせ対応]に、業務マニュアルは[ヘルプデスクや新人のオンボーディング]にAIを活用するイメージです。
ただ、伴走支援の現場で“ここまで整えて初めてAIが実務に耐える”と痛感するのは、こうした文書の一段下にある『メタなナレッジ』を整備できた時です。
(1)社内用語辞書と表記ゆれ辞書
同じ製品や対象を、営業は『A案件』、開発は『PJ-A』、経理は『正式製品コード』で呼ぶ。あるいは『顧客』『お客様』『取引先』の混在、全角・半角、旧社名・新社名、部署の略称など。
人間なら文脈で読み替えますが、AIは表記が揺れた瞬間に別物として扱い、名寄せに失敗します。
(2)略語・正式名称のマッピングと組織・権限の構造データ
社内特有の略語やシステム名、“この申請は誰の承認が必要なのか”という権限マトリクス、部署間の役割分担。
これらは文書のどこにも書かれておらず、ベテランの頭の中にしかないことが大半です。
(3)指標・数値の定義そろえ
意外に見落とされがちなのがこれです。
ひと口に「売上」と言っても、受注ベースか計上ベースか、部署によって意味が異なります。
『稼働率』や『リードタイム』の定義が揃っていないままAIに集計させれば、それらしい数字が出てくるだけに、誤りを見落としてしまう危険があります。
会議メモや業務ノウハウは、属人化した暗黙知を形式知へと変える素材でもあります。
重要なのは、これらは
文書をただ並べるだけでなく、その裏にある言葉・構造・定義を揃えて初めて、ナレッジデータ層はAIの『共通言語』として機能し始めます。
整備されていない企業で、実際に起きていること
ここで、実際にあった事例をご紹介します。
⛑️ある現場での一コマ
AIの利用が現場に広がった数か月後、品質保証部門の担当者が、自分のPCから毎回同じ『検査基準書』をAIにコピー&ペーストして使っていました。しかも隣の班の担当者も、まったく同じ資料を、それぞれ別々にAIに読み込ませていたのです。
これは初期段階ではよくある、むしろ自然な光景です。
しかし、全社活用のフェーズでは大きな非効率に変わります。同じ作業が何度も繰り返され、
さらに厄介なのは、その基準書が最新版とは限らないことでした。「最新資料がどれか分からない」問題は、想像以上に深刻です。
似たようなファイル名、更新日の異なる複数バージョン。
AIが古い資料を掴めば、古いルールに基づく誤った回答を、もっともらしい内容で返してきます。人間なら「あれ、これ古くない?」と気づくところを、AIは疑いなく答えてしまうのです。
さらに、人事・総務・法務・営業・CSと、部署ごとにナレッジが分断されがちですが、
ナレッジが縦割りのままだと、AI活用も個別最適にとどまり、全社的な生産性向上には結びつきません。
『AI-ready』な現場をつくる、7つの実践ステップ
『AI-ready』な企業とは、単に“AIツールを導入している状態”を指すのではありません。
AIが業務で正しく動くように、データとナレッジが整った状態 のことです。
伴走支援の中で、私は次の7つのステップで整理することをお勧めしています。
| 実施内容 | 具体的なアクション | |
| 1 | アウトカムを明確にする | 問い合わせ対応時間の削減か、契約レビュー品質の向上か、成果を言語化する。 |
| 2 | 必要な情報をリストアップする | 規程、マニュアル、過去事例、FAQ、提案資料を用途別に洗い出す。 |
| 3 | 情報の探し方を分析する | 現場はフォルダで探すのか、検索か、「詳しい人に聞く」のか。暗黙知を特定する。 |
| 4 | 情報の使われ方を分析する | 文書全体を見るのか、特定の条文だけか、過去事例と比較するのかを把握する。 |
| 5 | プロンプトで手動検証する | いきなりAI化せず、人が資料を選んでAIに渡し回答を検証。必要な粒度や不足データを見つける。 |
| 6 | システムとして構築する | 検索、RAG(検索拡張生成)、ナレッジベース、ワークフローを組み合わせる。 |
| 7 | 継続的に運用・更新する | 更新ルール、管理者、承認フロー、利用ログの分析体制を整える。 |
ここまで整えて初めて価値が出ます。
多くの方が、いきなり『ステップ6(RAGの構築)』からスタートしてしまうケースをたくさん見てきました。
しかし、アウトカム(成果)も情報整理も曖昧なままAIエージェントを作ると、どんなに立派な仕組みができても「現場が全く使わない」という失敗を招くことがあります。
AIの出力から逆算して、データ(暗黙知)をつくる
AI活用を進めるには、
実は、企業の業務には、文書化されていない判断基準が驚くほど多く眠っています。
「このケースは法務に確認する」
「この顧客にはこの説明を避ける」
「この申請は例外的に承認が要る」
こうした暗黙知は、ベテラン社員の頭の中にしかありません。
先日、ある情報通信系のお客様で印象的な場面がありました。
問い合わせ対応をAI化しようとした際、過去のFAQをすべて読み込ませても、なぜか精度が上がりませんでした。原因を探ると、現場のベテランが“FAQには書けないけれど、毎回そうしている判断”を無数に持っていたのです。
そこで私たちは、そのベテラン社員の方に半日インタビューを行い、
AI活用の本質とは、企業内に眠る知識を掘り起こし、再利用可能な資産に変える ことでもありますね。
まとめ
ここまで、ナレッジデータ層の整備について、実際の現場で起きていることを交えながらお伝えしてきました。
これはまさに、『ナレッジマネジメント』そのものを再設計する取り組みです。
ナレッジデータ層が整えば、社員一人ひとりが同じ資料を個別に読み込む無駄はなくなります。「どれが最新版か分からない」という不安も減り、部署を跨いだ業務でも同じ知識を再利用できるようになります。
そうして初めて、AIは個人の手元を助けるだけのチャットツールから、組織の業務プロセスに組み込まれた実務支援基盤へと変わっていきます。
用語を揃え、定義を揃え、暗黙知を言語化していく作業は、地道で目立ちません。しかし、
ワークスアイディでは、『Microsoft 365 Copilot』や『Copilot Studio』を活用した伴走支援の中で、こうしたナレッジデータ層の整備からご一緒させていただくケースが増えています。ぜひ、お気軽にご相談ください!
皆さまの会社でも、まずは『ナレッジデータ層』について、一度議論してみてください。
それでは、本日もGOOD JOB!!
▼こちらもおすすめ

