ここ数年の間にDX(デジタルトランスフォーメーション)の認知度は高まり、さまざまなメディアでも取り上げられる機会が増えてきました。DXの波に乗り遅れないよう、DX化を実現するための取り組みを行っている経営者や担当者も多いのではないでしょうか。しかし、DXの本質が分からないまま進めてしまうと、十分な成果が見込めないばかりか時間やコストが無駄になってしまいます。
そこで今回の記事では、DXの実現に向けて企業が取り組むべき具体的なポイントや、政府が推進している政策についても紹介します。
DXを進めるうえでの誤った認識
昨今、ビジネス業界においてDXという言葉が注目されるようになり、実際にDXの実現に向けて取り組む企業も増えてきました。これまで、ITツールやシステムはIT関連の企業を中心に開発してきたケースがほとんどでしたが、ITの分野に縁遠かった非IT関連の企業も積極的にITを取り入れるようになりました。
しかし一方で、DXについて誤った認識をしている企業も散見されます。例えば、「IT部門だけがデジタル化を進めればよいのでは」「AIやIoTといった先端のテクノロジーを導入すればよいのでは」という考えです。
AIやIoTといったIT関連のテクノロジーは、あくまでもDXを実現するための手段であり、本来の目的ではありません。システムやツールの導入そのものがゴールと認識しており、どのような業務課題を解決したいのか、ということが抜け落ちているケースは多いのです。また、企業や組織として抱える業務課題を解決するためには、IT部門の担当者だけが取り組めばよいというわけではなく、部署や役職を問わず横断的に課題を抽出し解決方法を見出していく必要もあります。
このように、誤った認識のもとでDXに取り組んでいくと、システムやツールを導入しただけで満足してしまい、結局生産性や業務効率が上がらず途中で断念する企業も少なくありません。また、そもそもシステムやツールを導入する段階で、結局何の課題を解決したいのかという本質を見失うことも多く、経営判断としてDXへの対策が後回しにされてしまう可能性も考えられます。
政府が推進するDXに関連する政策
企業のDX化を推進するために、政府はいくつかの政策を展開しています。今回は、そのなかでも特に重要な3つの政策について詳しく紹介しましょう。
DX認定制度
DX認定制度は、DX推進の準備が整っている事業者を国が認定する制度です。
2020年11月にスタートしたばかりの制度で、事業者はIPA(情報処理推進機構)に設置されたDX認定制度事務局へ認定申請を行い、その結果を踏まえて経済産業省がDX認定事業者として認定するフローとなっています。
具体的な認定基準としては、経営ビジョンにDXの内容が盛り込まれているか、DXを実現する体制が構築されているか、DXに向けた戦略が練られているか、などがポイントになります。これらの基準をより詳細に示したものが、以下で紹介する「デジタルガバナンス・コード」にあたります。
デジタルガバナンス・コード
デジタルガバナンス・コードとは、DX認定制度の取得に向けて具体的に取り組むべきポイントを示したものです。
「ビジョン・ビジネスモデル」「戦略」「成果と重要な成果指標」「ガバナンスシステム」の4つの柱立てがあり、それぞれの認定基準や方向性、取り組み例などが以下の通り紹介されています。
「ビジョン・ビジネスモデル」
- 経営ビジョンのなかにデジタル戦略が掲げられている
- ビジネスモデルの弱みを把握し、その改善に向けてデジタル戦略が寄与している
- 事業のリスクおよび新規創出に向けてデジタル戦略が支援している
- デジタル技術でさまざまな協創を実現し、革新的な価値を創造している など
「戦略」
- デジタル化に向けて合理的な予算配分がされている
- データを経営資産のひとつとして活用している
- データをもとに経営状況を把握し、経営や事業に関わる意思決定が行われている など
「成果と重要な成果指標」
- デジタル戦略の達成度をKPIとして管理している
- 実際に財務成果を上げている
- デジタル戦略によってSDGsに関わる取り組みを行っている など
「ガバナンスシステム」
- 経営者自らがDXの推進に向けて自社の方針をステークホルダーに発信し続けている
- 経営者自らがDXを推進する部署とコミュニケーションをとっている
- DXの推進に関する項目を定期的に経営会議で議論している など
DX銘柄
DX銘柄とは、経済産業省と東京証券取引所が共同で実施している施策で、東証上場企業のなかから特にDXに積極的に取り組んでいる企業を選定するというものです。
DX銘柄は2015年に「攻めのIT経営銘柄」としてスタートした取り組みで、名称を「DX銘柄」に変更した2020年には35社が選定されました。IT分野を本業とする情報通信業以外にも、小売や医薬品、鉄鋼、機械、金融など、幅広い業種のなかからDX銘柄が選定されています。
DX銘柄に選定されるためには、DX認定制度への申請が完了していることが条件となっているほか、アンケート調査の回答や評価委員会からの取り組み評価が一定の基準以上であること、重大な法令違反がないことなどが選定基準となります。
正しいDX化に向けて企業が取り組むべきこと
DXを実現するためにさまざまな政策が展開されていますが、これらを正しく理解することによって、自ずと企業が取り組むべきことが見えてくるはずです。具体的には、まずはデジタルガバナンス・コードを参考に、DXをもとにしたビジョンや戦略を練り直すことが重要といえるでしょう。
また、DXは従来の業務の一部を単に自動化したり、効率化したりするITシステムではなく、IT技術を活用して新たなビジネスモデルを設計することが求められます。そのため、現場で働く担当者レベルだけの取り組みでは限界があり、DXの本質に近づくことは難しいものです。実務レベルの担当者は細かな調整や業務を担う必要がありますが、それ以前に経営層が主体となってビジョンや方向性を示したうえでDXに取り組む必要があります。
企業として明確なビジョンや方向性が決まったら、DXを盛り込んだ具体的な事業戦略および社内の体制を構築し、ステークホルダーに示します。その後、具体的にどのような仕様のシステムや技術が求められるのか、プロジェクトに関するマネジメント方針や運用計画を担当者レベルで検討していくという流れが効率的といえるでしょう。
DXを実現するために重要な考え方
昨今、ビジネス業界ではDXが大きなトレンドとなっています。経営者のなかには、「国が推進しているから」「他社でも取り組んでいるから」といった理由で、いわば流行に乗り遅れないためにDXに取り組むケースも少なくありません。
しかし、冒頭でも紹介したように、DXの最終的な目的は業務効率化や生産性の向上、そして何よりも新たなビジネスモデルの創出であり、企業にとってはある意味で普遍的なものといえます。
具体的な取り組み事例でも紹介したように、DXはIT部門に丸投げして実現できるものではなく、経営層から現場の担当者レベルまでを含め、部門を問わず企業が一体となって取り組んでいく必要があります。経営ビジョンや経営戦略に密接に関わる課題である以上、担当者レベルだけでの取り組みでは限界があることを理解したうえで、経営層が主体的かつ積極的に関与していくことが何よりも重要といえるでしょう。
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